22/03/12

今から約四年前のことだ。その日、私はYと小田原で遊ぶ約束をしていた。前日に静岡で用事があって、その帰りに小田原を通るのだが、以前どこかで彼女が小田原付近に住んでいると聞いたことがある気がした。だから小田原で集まらないかと、私が提案したのであ…

22/03/07

眠れない夜。幾度となく寝返りを打ちながら、過去の出来事を思い起こし過ごすときがある。あたかも『千夜一夜物語』のように、隣に聴き手がいる前提で。しかし暗い部屋の寝床には自分以外の誰もいない。だから必然的に、私は自分に対してのみそれを語ること…

22/03/02

「倫理的な問い」、そう呼ぶべきものが世には多く存在する。しかし何故、倫理が問われるのか。もとい、誰が倫理を必要とするのか。疑う余地なき倫理観を持っているならば、そもそも倫理についての問題を提起する必要などない。よって、倫理を必要とする人間…

21/02/25

人は死に憧れる。死とは退廃、不幸、悲しみの象徴である。世の中には退廃的なもの、不幸なものに恋焦がれる人間が一定数いる。確かに不幸は人を特別にするが、理由は決してそれだけではない。不幸なもの、退廃的なものには、それ固有の優しさとも言うべきも…

22/02/20

"身体すらも、もはや厳密には動くもの──運動の主体であり行動の道具──ではなく、むしろ時間を〈啓司するもの〉[revelareur]となるのであり、その疲労と待機によって時間を証言するものとなる" 知性は遅れてやってくる。身体は時間の真実を啓示する媒体であ…

22/02/15

時間の残酷さは、一切を「未だ早すぎる」と「もはや遅すぎる」の二つに引き裂いてしまう点にある。今日までのことを思い起こすと、自分がいつも遅れて気づいていたことを知る。もっと早く気づいていたなら、結果は違うものになっていたかもしれないのに。し…

22/02/10

夢には犠牲が付き物である。しかしその際、夢の犠牲になるのは自分ではなく、むしろ他人である。 夢見ることを求めて、人は自分と同じ夢を見ない誰かを求める。ヴィンセント・ミネリについて論じる時、ドゥルーズは次のように語ったことがある。 "夢につい…

22/02/05

日常の本質は、一切が何も起きなかったように生じる点にある。たとえ特異な出来事が起きたとしても、あたかも何事もなかったかのごとく日々は続く。それは小津安二郎の映画に似ている。妻が死に、家族がバラバラに引き裂かれ、娘が婚約しようとも、以前と同…

《ボール》

木の葉が舞う。枯れて黄ばんだ葉は、否定の身振りでふらふらと宙を舞う。他の葉と同様、それは音もなく落ちる。公園を見渡せば、一面が枯葉で満たされていた。斜陽が差し、冷たい空気が騒音を拭う。午後四時を過ぎた今、一切が物憂げに染まろうとしている。 …

22/01/26

読書家の喜びは、いい感じの文章表現を見つけてニヤニヤすることにある。本を開くことの楽しみは、まさにかつての自分では言い表すことの出来なかったものを知ることだ。 「行き止まりならやり直せるかい/ここは罪深く暗い/鼠と猫が仲良くゲロ啜る/金蝿の…

22/01/21

"我々は身体を信じなければならないが、生の胚芽を信じるように、聖骸布やミイラの包帯の中に保存され、死滅せずに、舗石を突き破って出てくる種子を信じるように、それを信じなければならない。" ある日暮れ頃、電車に揺られながら、私は突如永劫回帰の意…

22/01/16

着飾るということには不思議な作用がある。ステージ上のメイクをしたバンドマンは、普段とはまるで違う、「別人」がそこにいるのを覚える。人が衣装を着るのではい、衣装が人を着るのだ。その人の精神状態が容姿に出るのではなく、むしろある容姿のために、…

22/01/11

行為の危機、それは説明不可能な世界の現前から生じる。元来、人は行動に対して二つのイメージを抱くものだと思われる。一つはシチュエーション(状況) → アクション(行動の発生) → シチュエーション(別の状況の出現)で、もう一つはアクション(行動) → シチュ…

22/01/06

不思議だ。寝たい時に眠れず、寝てならぬ時に眠りが訪れる。いつからか、そんな毎日が繰り返されるようになった。自律神経が狂っているというやつなのだろう。 不眠に悩まされることは、これまでにも何度かあった。しかし、かつての私にとって、不眠は一つの…

22/01/01

初日の出を見た。思えば生まれて初めてかもしれない。日の出自体、偶然見かけることはあれど、ほとんど拝むこともなく生きてきた。綺麗だった。徐々に、ゆっくりと、黄金の輝きがあたりを焼き尽くしていく。しかし、気がつけばそれも終わっていた。地平線と…

《表現と結晶》エピローグ

警察はXの死を事故によるものだと断定した。Xの両親とも、彼女の死によって初めて会うこととなった。しかし、その辺りのことは、もうあまり思い出せない。 彼女の葬式にも参列した。会場からはひそひそと話し声が聞こえた。参列中、私はできる限り彼女との…

《表現と結晶》二・4

朝が近づいている。もう四時だ。雨は先よりかは小降りになったかも知れない。ふとペンを置き、両手で顔を覆う。不思議だ。この場面を書くために筆を取ったのに、いざその箇所に至ると、書く気が起きない。自分でも、それが何故なのかわからないのである。 ス…

《表現と結晶》二・3

初めての晩から一ヶ月と経たないうちに、彼女は私の部屋に住み始めた。もとい、住まざるを得なくなった、と書いた方が正確だろう。理由は単純である。元の家に暮らすことが出来なかったからだ。 朝の幸福は長続きしなかった。私と同様、彼女もスマートフォン…

《表現と結晶》二・2

あの電話以来、Xはもっと沢山のこと話してくれるようになった。私はずっと何故彼女が法学部に行ったのか知りたいと思っていた。しかし、その理由も聞くことができた。彼女は両親が二人とも弁護士であったのだ。そして家の方針として、法学部以外を選択する…

《表現と結晶》二・1

雨が降る。コンクリートの大地を鞭打つ音がする。無数の水滴が地上に弾ける。その音が聴こえる。そして気がつく、知らぬ間に音楽が止んでいることに。どうやらスピーカーの充電が切れたようだ。今や一切は雨に染まる。私の部屋は土砂降り模様に変わっていた…

《表現と結晶》一・2

夜。一切が闇に沈もうとする今、満月だけが私を引き止めてくれる。月光には不思議な作用があると思われる。夜は白銀のヴェールに包まれて、その裏にある天体の輝きを想起させてくれる。生憎、私の住む部屋からは星が見えない。街灯が星の在り処を隠してしま…

《表現と結晶》一・1

今でも思い出す記憶がある。それは私が幼稚園児の頃の話だ。 床にしゃがんで画用紙を敷き、私はひとり絵を書いていた。ふと、ある女の先生が「何を描いているの」と聞き、近づいてきた。私はそれに答えようとした。しかし、聞かれて初めて気づいたのだが、自…

21/12/21

十月末から書いていた小説をやっと書き終えた。合計約六万字であるが、正直、こんなに苦労するとは思わなかった。明日から一日一章ずつ投稿して、年内には全編読めるようにするつもりである。 書いたものについて、公開する前から強いて言いたいことがあると…

21/12/09

最近、小説を書いている。二部構成を予定していて、そこにエピローグも加えようと思っている(場合によっては、このエピローグが短いながらに第三部となるかもしれない)。先日、第一部を書き終わり、今は第二部の途中を書いている。タイトルは『表現と結晶』…

21/11/21

全てが遅い。あまりにも遅すぎる。それはヴィスコンティの『山猫』を貫くテーマである。時代が変わり、新勢力が台頭する。革命戦争が勃発し、旧勢力は没落する運命にある……。バート・ランカスターが演じる主人公は古い世代に属し、彼は貴族の大公である。に…

21/11/15

疲労とは何か。それは選択することの苦しみである。可能性の実現。それは選択の排除によって行われる。そして時には、一つの選択をした後になってやっと別の選択肢があったことに気がつくことがある。「あれがあったならば、これもあったのではないか」「何…

21/10/23

現代の恐ろしい所、それはあらゆるものが公的になりつつあるということだ。個人の私生活さえ、今や他人の眼を気にして演技するべき舞台となっている。最早私達を見張るのはお天道様ではなく、他ならぬ私達自身である。そこにいない他者の眼差しを気にして自…

『差異と反復 - はじめに』に対する個人的な注釈

『差異と反復』のアメリカ版への序文の中で、ドゥルーズは次にように書いている。「……私を襲い熱狂させたヒューム、スピノザ、ニーチェ、プルーストを研究したあと、私は「哲学すること」を試みたのだが、その最初の著作こそ『差異と反復』であった」と[※1]。…

Neil Young - After The Gold Rush (和訳)

Well I dreamed僕が夢を見ているとI saw the knights in armor comin'甲冑の騎士がやってきてSayin' something about a queen女王様について何かを言った There were peasants singin'そこでは農夫らが歌っていてand drummers drummin'奏者たちが太鼓を叩きA…

David Bowie - Rock 'N Roll Suicide(和訳)

Time takes a cigarette,煙草を吸う時間だputs it in your mouth君はそれを燻らせようとするけれどYou pull on your finger,おぼつかない意識は自分の指先を口元に運びthen another finger,また間違えて他の指をしゃぶってしまいthen cigaretteそれからやっ…